彦星はいかにして天の川を渡るか
2020:天の川 夜舟を漕ぎて 明けぬとも 逢はむと思ふ夜 袖交へずあらむ
柿本人麻呂歌集より あまのがは よふねをこぎて あけぬとも あはむとおもふよ そでかへずあらむ
天の川に、舟を漕いでいる僕。たとえ夜が明けてしまったとしても、
あなたに逢おうと思っているこの夜、どうして一緒に一夜を過ごさずにいられるだろう。
万葉集には七夕や天の川を歌った歌が九十八首もおさめられています。
一年にたった一度のこの七夕の夜、
日本の七夕伝説では、彦星の方が天の川を渡って
織女のもとにやって来るというのですが…。
天の川を渡る方法は、
舟を使うか、
橋を渡るか、
川を歩いて渡るかの三通り。
それに、七夕歌には、一つの見事なシナリオでできあがっている歌の群もあります。
天の川 去年の渡りで うつろへば 川瀬を踏むに 夜ぞ更けにける2018 柿本人麻呂歌集より
あまのがは こぞのわたりで うつろへば かはせをふむに よぞふけにける
「あの天の川がね、去年は歩いて渡る浅瀬があったのに、
その浅瀬が移ってしまっていてね。川の水の浅いところを
探してしていたら、夜がこんなに深くなってしまったのですよ」
本当に、水の浅いところを探すのに時間をとられ、
逢うべき時を失い、残念がっている哀れな彦星とも解せますが、
もう待ち疲れた織女に、遅くやってきてしまい、
い訳をしている彦星とも解せます。
男性が女性のもとに通うのは、
午後8時くらいから夜中までとされていて
、夜中を過ぎると、夜更けとなり、
もう通ってはいけないというタブーがありました。
いや、実際はそんなに遅くなったのではないかもしれません。
ほんのちょっと遅れただけ。すこしうそをついて
、ただただ大げさに言っているだけなのかもしれません。
一年にたった一度の逢瀬なのですから。
「遅いわねえ」とすねて見せている、待ちに待っていた織女の歌はこうです。
古ゆ 上げてし機も 顧みず 天の川津に 年ぞ経にける
いにしへゆ あげてしはたもかへりみず あまのかわづに としぞへにける
柿本人麻呂歌集より
「昔からずっと機にかけておいた織物もすっかり打ち捨てて、
天の川の船着き場であなたを待って、ずっとこの一年過ごしてきたのよ」
織女の務めである大切な機織り仕事を打ち捨てる
はずもないでしょうから、
やっぱり少しうそをついて。
まことに大げさな
こうした表現が彦星の歌に
ぴったりと合い、
万葉びとの愛の言葉のやりとりにほれぼれとするのです。
コメント
コメントを投稿